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日本の社会保険完全ガイド:起業家が知っておくべき健康保険・年金・労働保険(2025年版)

健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険まで、日本で起業する方のための社会保険の全体像を整理。保険料の目安、在留資格への影響、日中社会保障協定も解説します。

出入国在留管理庁公開資料に基づいて作成

日本で起業する際には、会社設立や在留資格、税務に加えて、避けて通れない大きなテーマがもう一つあります。それが社会保険です。

多くの起業家は、法人設立や経営管理ビザの取得を終えた後になって、社会保険の複雑さに直面します。制度の種類が多く、保険料負担も重く、手続も煩雑で、しかも在留資格の更新永住許可申請にも直結します。

この記事では、日本の社会保険には何があるのか、どのくらい費用がかかるのか、起業家が注意すべきポイントは何かをまとめて整理します。


社会保険の全体像 事業者は何に加入するのか

日本でいう広い意味での「社会保険」は、大きく2つに分かれます。

区分含まれる保険想定される場面
社会保険(狭義)健康保険 + 厚生年金保険法人は原則として加入必須
労働保険労災保険 + 雇用保険従業員を雇用したら加入必須

法人は強制加入で、例外は基本的にありません

起業家がもっとも誤解しやすい点の一つがここです。株式会社や合同会社などの法人を設立した場合、健康保険と厚生年金保険への加入は原則として必須です。

たとえ「一人社長」であっても、法人が存在し、会社から役員報酬を受け取っていれば、その会社は強制適用事業所に該当します。

  • ✅ 一人株式会社で、社長の月額報酬が20万円 → 加入必須
  • ✅ 合同会社で、代表社員が1人のみ → 加入必須
  • ❌ 個人事業主で、常時使用する従業員が4人以下 → 原則として強制加入ではない

未加入のリスクとしては、年金事務所からの指導や催告に加え、最長で過去2年分の保険料を遡って徴収され、延滞金が発生する可能性があります。さらに重要なのは、経営管理ビザの更新では社会保険の加入状況が確認される点です。未加入のままでは、実務上きわめて不利です。

労働保険は従業員を雇った時点で必要になります

一人社長の段階では、通常は労働保険は不要です。ただし、1人でも従業員を雇用した時点で、労災保険と雇用保険の手続が必要になります。一定の条件を満たすパート・アルバイトも対象です。

覚え方はシンプルです。

法人設立 → 社会保険(健康保険 + 厚生年金) 従業員を雇用 → 労働保険(労災保険 + 雇用保険)


健康保険の基本

健康保険は、日本の医療保障制度の中心です。法人経営者が加入するのは、個人事業主が加入する国民健康保険ではなく、被用者保険の仕組みです。

協会けんぽと国民健康保険の違い

項目協会けんぽ(全国健康保険協会)国民健康保険
対象法人の役員・従業員個人事業主、無職の方など
保険者全国健康保険協会市区町村
保険料率の決まり方都道府県ごとの料率市区町村ごとに計算
事業主と本人の折半✅ あり❌ なし
被扶養者制度✅ 配偶者や子どもを追加保険料なしで扶養に入れられる❌ 人数に応じて保険料負担が生じる
傷病手当金✅ あり❌ 原則なし

中小企業や創業間もない会社の多くは、協会けんぽに加入します。業種によっては健康保険組合に加入できる場合もあり、料率や付加給付が有利なことがありますが、加入条件があります。

保険料率(2025年度・東京都)

協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なります。2025年度の東京都の目安は次のとおりです。

  • 健康保険料率:約9.98%(介護保険料を含む場合は約11.58%)
  • 労使折半のため、会社負担と本人負担はそれぞれおおむね5%前後

40歳以上の被保険者には、介護保険料(約1.6%)が上乗せされます。こちらも労使折半です。

保険料は実際の給与額そのものではなく、標準報酬月額に基づいて計算されます。日本年金機構が毎年公表する標準報酬月額表で、報酬額を一定の等級に区分して計算します。

:月額報酬30万円の場合、標準報酬月額も30万円となり、健康保険料は月額約29,940円(会社負担と本人負担の合計)、本人負担は約14,970円です。

被扶養者制度 家族を追加負担なしで入れられる

協会けんぽが国民健康保険より有利とされる大きな理由の一つが、被扶養者制度です。配偶者や子どもなどが次の条件を満たせば、被扶養者として健康保険に加入でき、追加の保険料は原則かかりません

  • 年収が130万円未満であること(60歳以上または障害者は180万円未満)
  • 主として被保険者の収入で生計を維持していること
  • 三親等内の親族であること

家族を日本に呼び寄せて生活する起業家にとって、この制度のメリットは大きいです。家族の在留資格については家族滞在ビザガイドも参考になります。

主な給付内容

1. 医療費の自己負担は原則3割

医療機関を受診した際、自己負担は原則として医療費の**30%**です。残りは保険給付でまかなわれます。

2. 高額療養費制度

1か月の医療費自己負担額が一定額を超えると、超過分が払い戻されます。標準報酬月額28万円から50万円程度の方であれば、自己負担限度額の目安は**80,100円 +(総医療費 - 267,000円)×1%**です。

たとえば入院や手術で医療費総額が100万円かかっても、実際の自己負担はおおむね8万円から9万円程度に収まるケースがあります。

3. 傷病手当金

病気やけがで4日以上連続して働けない場合、4日目以降について標準報酬日額の3分の2相当額が、最長1年6か月支給されます。

⚠️ 注意:法人の代表取締役は、原則として傷病手当金の対象外です。代表者には経営判断を行う立場があると考えられるためです。ただし、実態によって判断が分かれる場合もあるため、詳細は社会保険労務士への確認が適切です。

4. 出産に関する給付

  • 出産育児一時金:1児につき約50万円
  • 出産手当金:産前42日、産後56日について標準報酬日額の3分の2

厚生年金の基本

厚生年金保険は、日本の公的年金制度における「2階部分」にあたります。厚生年金に加入している人は、同時に国民年金にも加入している扱いになります。

保険料率

  • 厚生年金保険料率:18.3%
  • 労使折半のため、会社負担・本人負担はそれぞれ9.15%

こちらも標準報酬月額に基づいて計算されます。上限等級は65万円です。

:月額報酬30万円の場合、厚生年金保険料は約54,900円/月(会社負担と本人負担の合計)、本人負担は約27,450円です。

第1号・第2号・第3号被保険者

日本の公的年金制度では、20歳以上60歳未満の人が次の3区分に分かれます。

区分対象保険料の納め方
第1号被保険者個人事業主、フリーランス、学生など自分で国民年金保険料を納付
第2号被保険者会社員、公務員、法人役員厚生年金保険料に国民年金部分も含まれる
第3号被保険者第2号被保険者に扶養される配偶者(年収130万円未満)自己負担なしで国民年金に加入

法人の代表者で役員報酬を受けている方は、通常第2号被保険者です。配偶者の年収が130万円未満であれば、第3号被保険者として国民年金に加入でき、本人が保険料を別途支払う必要はありません。

将来いくら受け取れるのか

年金額は、加入期間と標準報酬月額の水準によって決まります。大まかな目安は次のとおりです。

  • 老齢基礎年金:40年間すべて加入した場合、2025年度の満額は約816,000円/年
  • 老齢厚生年金:平均標準報酬月額と加入月数に応じて決まる

概算式は、老齢厚生年金の年額 ≒ 平均標準報酬月額 × 5.481/1000 × 加入月数です。

たとえば平均月額報酬30万円で20年間(240か月)加入した場合、老齢厚生年金は約394,632円/年となり、老齢基礎年金を合わせると年間約121万円が一つの目安になります。

日中社会保障協定

中国籍の方にとって、ここは特に重要です。

日本と中国の間では、2019年9月1日から日中社会保障協定が発効しています。主なポイントは次のとおりです。

  • 二重加入の回避:日本で年金制度に加入している期間について、中国側の養老保険加入義務の免除を受けられる場合があります
  • 派遣に関する特例:中国企業から日本へ派遣される場合で、派遣予定期間が5年以内であれば、日本の厚生年金を免除できる場合があります
  • ⚠️ 通算規定はありません:日米協定や日英協定などと異なり、現時点で日中協定には加入期間の通算制度がありません

つまり、日本での年金加入期間が受給資格期間である10年に満たない場合、日本の年金を将来受け取れない可能性があります。

日本で法人を設立し、役員報酬を受け取って経営する中国籍の起業家は、通常、日本国内で就労する者として厚生年金への加入が必要です。その一方で、中国側での重複加入免除を申請できる可能性があります。


労働保険 従業員を雇ったら必要になる制度

会社が従業員を雇い始めると、労働保険の対応が必要になります。

労災保険(労働者災害補償保険)

目的:業務中または通勤中のけが、病気、障害、死亡について補償する制度です。

主なポイント

  • 保険料は全額会社負担で、従業員負担はありません
  • 料率は業種によって異なり、2.5/1000から88/1000程度
  • 事務系業種ではおおむね**3/1000(0.3%)**が目安
  • 業務災害、通勤災害、職業病など広く対象になる
  • 治療費は原則自己負担なし
  • 休業補償は賃金の概ね80%相当

雇用保険

目的:失業時の基本手当のほか、育児休業給付、介護休業給付などを支える制度です。

主なポイント

  • 会社と従業員の双方が負担
  • 2025年度の一般の事業における料率は15.5/1000(1.55%)
    • 従業員負担:6/1000(0.6%)
    • 会社負担:9.5/1000(0.95%)
  • 加入条件は、週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがあること
  • 基本手当、育児休業給付金、介護休業給付金、教育訓練給付などの給付がある

経営者は労働保険に入れるのか

原則として、そのままでは入れません。

  • 労災保険:法人の代表者や役員は通常「労働者」に当たらないため、一般の労災保険には加入しません。ただし、中小事業主等の特別加入制度を利用できる場合があります
  • 雇用保険:代表取締役は原則加入不可です。兼務役員で、実態として労働者性が認められる場合に限り、加入できる余地があります

創業初期の一人社長であれば、労働保険はまだ関係しないことが多いです。ただし、最初の従業員を雇った時点で、雇用日から10日以内を目安に、労働基準監督署やハローワークで必要な手続を進める必要があります。


社会保険料の実際の負担感

起業家にとって最も気になるのは、実際にいくらかかるのかという点でしょう。ここでは簡単に試算します。

月額報酬30万円の場合

東京都・協会けんぽ・40歳未満を前提にすると、目安は次のとおりです。

保険の種類料率月額(労使合計)会社負担本人負担
健康保険9.98%29,940円14,970円14,970円
厚生年金18.3%54,900円27,450円27,450円
小計28.28%84,840円42,420円42,420円

従業員がいる場合は、さらに次が上乗せされます。

保険の種類料率会社負担
労災保険0.3%(事務業)900円
雇用保険(事業主負担分)0.95%2,850円

月額30万円の従業員を1人雇う場合、会社の実質的な人件費は約346,170円となります。

月額報酬50万円の場合

保険の種類月額(労使合計)会社負担本人負担
健康保険49,900円24,950円24,950円
厚生年金91,500円45,750円45,750円
小計141,400円70,700円70,700円

月額報酬50万円では、社会保険料は毎月約14万円に達し、会社負担と本人負担がそれぞれ約7万円ずつになります。

起業家が見落としやすい隠れコスト

多くの起業家が見落としがちなのは、一人社長の場合、会社負担分も結局は自分のお金だという点です。

自分の役員報酬を月30万円に設定した場合:

  • 本人負担(給与天引き):約42,420円
  • 会社負担(会社口座から支払い):約42,420円
  • 実質的な社会保険負担総額:約84,840円/月、年間では約102万円

ここに所得税や住民税も加わるため、月30万円の役員報酬でも、手取りは20万円強にとどまることがあります。

起業時の資金計画では、オフィス賃料や給与だけでなく、会社負担分の社会保険料まで含めて見積もることが重要です。


在留資格の更新と永住申請における社会保険の重要性

経営管理ビザで日本に滞在する起業家にとって、社会保険は単なる法令遵守の問題ではなく、在留継続そのものに関わる実務上の重要事項です。

在留資格更新では社会保険の確認が行われます

2020年頃以降、経営管理ビザの更新審査では、社会保険に関する資料の提出が明確に求められる運用が定着しています。

  • 健康保険・厚生年金保険料領収証書の写し
  • 社会保険料納入証明書 または 社会保険料納入確認書

法人を設立しているのに社会保険へ加入していない場合、更新時に説明を求められ、状況によっては更新結果に重大な影響が生じます。必要書類の詳細は経営管理ビザ更新書類ガイドを参照してください。

永住申請では「きれいな納付記録」が求められます

永住許可申請では、さらに厳格な運用が一般的です。

  • 申請前の期間について、年金・健康保険を原則として継続的かつ適正に納付していること
  • 滞納がないこと
  • ねんきん定期便被保険者記録照会回答票などで納付実績を示すこと

2019年以降、永住審査における社会保険の納付状況は非常に重視される項目となっています。詳しくは経営管理ビザから永住への完全ガイドを確認してください。

未加入・未納の主なリスク

リスク内容
年金事務所からの催告・遡及徴収最長2年分の保険料に加え、延滞金が発生する可能性がある
在留資格更新で不利になる日本法令を守っていないと評価されるおそれがある
永住申請で不許可となる社会保険の未納・滞納は代表的な不許可要因の一つ
従業員との労務トラブル会社の未加入が発覚すると争いになる可能性がある
行政上の制裁健康保険法・厚生年金保険法に基づく罰則対象となり得る

要するに、日本で起業するなら社会保険は選択事項ではなく必須事項です。


FAQ

Q1:一人社長でも社会保険への加入は必要ですか?

必要です。 法人である以上、株式会社でも合同会社でも、社長1人だけであっても強制適用事業所に該当します。したがって、健康保険と厚生年金保険への加入が原則必要です。例外的に、役員報酬が0円であれば標準報酬月額が立たず、実務上加入できない場合がありますが、税務面や在留資格面で別の問題が生じ得ます。

Q2:役員報酬はいくらに設定するのが適切ですか? 社会保険料は調整できますか?

役員報酬の額が上がれば、社会保険料も上がります。ただし上限はあります。実務では、会社利益、個人の所得税負担、社会保険料負担のバランスを見ながら決めることが一般的です。税理士や社会保険労務士への相談が有効です。

Q3:個人事業主も厚生年金に加入しますか?

加入しません。個人事業主が加入するのは、通常国民年金国民健康保険です。個人事業を法人成りさせた場合には、厚生年金と健康保険の仕組みに切り替わります。

Q4:配偶者が中国に住んでいても、被扶養者にできますか?

原則として、2020年4月以降は被扶養者に国内居住要件が求められます。そのため、中国に居住している配偶者は、原則としてそのままでは被扶養者にできません。ただし、留学や海外赴任への同行など、例外的に認められるケースもあります。個別事情は年金事務所で確認してください。

Q5:社会保険料には節税効果がありますか?

あります。社会保険料は全額が所得控除または損金算入の対象です。本人負担分は個人の所得控除となり、会社負担分は法定福利費として経費計上できます。税務面の詳細は日本で起業する方向け税務ガイドを参照してください。

Q6:加入手続はどこで行いますか? 必要書類は何ですか?

  • 健康保険・厚生年金:管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」などを提出
  • 労災保険:管轄の労働基準監督署へ「保険関係成立届」を提出
  • 雇用保険:管轄のハローワークへ「雇用保険適用事業所設置届」を提出

法人設立後は5日以内を目安に社会保険の手続を行い、従業員を雇用した場合は10日以内を目安に労働保険の手続を進めます。現在はe-Gov電子申請の利用も可能です。

Q7:中国で養老保険を払っていても、日本の厚生年金に加入する必要がありますか?

中国企業から日本へ派遣されているケースで、派遣期間が5年以内であれば、日中社会保障協定により日本の厚生年金が免除される場合があります。一方で、日本で自ら法人を設立して経営している場合は、原則として日本の厚生年金への加入が必要です。そのうえで、中国側の免除申請を検討することになります。

Q8:社会保険料はいつ引き落とされますか? どうやって支払いますか?

社会保険料の納付期限は翌月末日です。たとえば4月分は5月末までに納付します。支払方法としては、口座振替、納付書による支払い、電子納付などがあります。納付漏れ防止のため、口座振替が一般的です。

Q9:試用期間中の従業員も社会保険に加入させる必要がありますか?

必要です。 日本では「試用期間中は社会保険不要」という考え方はありません。雇用関係が成立しており、加入要件を満たしていれば、入社初日から社会保険・労働保険の対象です。

Q10:日本を離れるとき、厚生年金は返ってきますか?

条件を満たせば、脱退一時金を請求できます。主な条件は次のとおりです。

  • 日本国籍を有していないこと
  • 日本国内に住所を有しないこと
  • 厚生年金保険の加入期間が6か月以上あること
  • 老齢年金の受給資格期間を満たしていないこと
  • 出国後2年以内に請求すること

支給額は、平均標準報酬額 × 支給率を基準に計算され、上限は60か月分相当です。なお、返還されるのは全額ではなく、受給後は対応する加入期間の記録がリセットされる点に注意が必要です。


まとめ

日本の社会保険制度は複雑ですが、その分、保障内容は非常に手厚いです。起業家として受け入れるべき現実は、社会保険が人件費に次ぐ大きな固定負担であるという点です。

一方で、この制度があるからこそ、日本で生活する本人と家族は次のようなメリットを受けられます。

  • 医療費の自己負担は原則3割で、高額療養費制度も利用できる
  • 配偶者や子どもを追加保険料なしで健康保険の扶養に入れられる場合がある
  • 将来の年金受給につながる
  • 在留資格更新や永住申請において、法令遵守の重要な裏付けになる

会社設立の初期段階から、信頼できる社会保険労務士に相談しておくのが実務的です。社会保険は単に加入すれば終わりではなく、役員報酬の設定、扶養認定、将来の年金戦略まで含めて設計する必要があります。

本記事は2025年度時点の制度情報をもとに整理しています。保険料率や制度運用は改定される可能性があるため、実際の手続や判断は年金事務所、協会けんぽなどの最新案内、または社会保険労務士の助言に基づいてください。


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最終更新:2026-03-02